カールツァイス双眼鏡Dialyt 7x42BGA T*

ある条件下においては、現代のどのようなトップエンド双眼鏡であっても代用が効かず、この双眼鏡でなければ見れない世界、見え方というものは確かに存在します。

説明不要の銘器ですが、一方で現代のハイエンド双眼鏡と純粋に性能差を比べ減点法でマイナスを数え優劣を競うのなら、この双眼鏡の方が一見して優っているとは言い難い双眼鏡でもあります。

しかし国内外の古くからの双眼鏡愛好家達は、現代の最新双眼鏡を経験していても尚、この双眼鏡には高い価値を置き長く所有し続けます。

現代の優秀な最新双眼鏡さえあれば事足りるはずが、手放さない方が多いです。

反対に、この双眼鏡の評価にはただ古く、当時としては人々を驚かせたというその性能が記憶補正され、半ば伝説化しているだけでなのではないかというロジックも付き纏います。

賛否両論あるという事でしょうか。

当方が思う事とすれば、
たとえば色々な双眼鏡を覗いて、最初はただ遠くの物が鮮明に綺麗に見えればそれだけで良かった筈なのに、
何故か他人にはわかってもらえそうも無い微妙な見え味の違いを求め、半ば漂流者のように異なる双眼鏡を覗き景色や星を眺めたくなる気持ちがある。

そういった感覚をお持ちの方は、最新の双眼鏡を備えた上で、一度この双眼鏡を通して様々なシチュエーションで、色々なものを見てみるのも良いのではないかという事です。

双眼鏡愛好家が何故この双眼鏡に特別な価値を与え所有し続けているのか。

様々な意味においてこの双眼鏡が製作されていた時代に限り可能になっていた見え方だろうと思いますし、現代のこの機種の立ち位置は「現代の双眼鏡に求められる高性能を堪能するための双眼鏡」という事とは違うと思います。

カールツァイスDialyt 7x42BGA T*を説明するとすれば、「双眼鏡を通して見える世界の不思議な魅力を、煮詰めて凝縮したような双眼鏡」

世界の多くの人々を魅了したカールツァイスDialyt 7x42BGA T*ならではの視覚体験だろうと思います。


( この双眼鏡は時代によって T*、T*P、T*P*(ClassiC)と存在し、それぞれに見え方が微妙に違います。

時代が新しくなるほど描写は現代寄りになり、夜の描写に強く、昼間のコントラストも高くなります。

しかしそのかわり昼間の景色においては繊細なシャープさと淡い階調表現が失われて行きます。

T*モデルは、コントラスト十分ですがそれが高すぎず、細かい色や線の描写を潰していません。

逆光時の描写の美しさも最も崇高な雰囲気です。

当方は3つのうちこのT*の描写をもっとも好んだため、残り2つは手放してもこの機種は最後まで残りました。)


★所感

カールツァイスDialyt 7x42BGA T*での視覚体験は、例えば魅力あるオールドレンズで撮影したフィルムカメラの写真の中へ、自分自身が入り込んでしまうような感覚。

目の前でその世界が生きて動いている姿を見ているような気持ちになり、それは目を奪われるというよりも静かに心を引き寄せられる、という見え方をしています。

哀愁と輝きを帯び、空気や色にまで特殊な雰囲気を感じられる世界。

現実の世界と似てはいても微妙に異なるその世界に時折、自分自身が入り込んでいるような錯覚を引き起こす事があります。

事においては何にでも共通する傾向があり、欠点の無さを過剰に追求するあまり失われてしまう長所というものは必ずあります。
それは双眼鏡の見え方にしても同じ事が言えると思います。

カールツァイスDialyt 7x42BGA T*には現代の双眼鏡からは失われてしまっている長所が強く存在しています。


★総括

主観に頼りすぎ論じることは良いこととは思いません。

しかしこういったものを現在主流の観点や価値観のみで測る事もまた出来ないと思います。

何のジャンルでも共通した事がうかがえますが、
人の感性を揺さぶるものはそういった両極とはまた違った観点から評価され、歴史に残っていくのではないかと個人的には思えます。


以上、お好きな方にお譲り出来れば幸いです。



★商品

光軸問題なし。綺麗に結像します。

各レンズ、プリズムは傷、カビ、曇り無く良好。

ピントリングは軽く滑らか。

外観にも打傷、塗装剥がれなどもほぼ見られず、年代を考慮すればトータルでとても良い
眼幅調整、視度調整ともに滑らかに稼働し、トルクも十分。

光学性能に関してもオーバーホールに出さなくとも現状で十分な性能だと思いますが、古いという事も考慮し開始価格はといたします。


(メーカーオーバーホールに出される場合、T*P*用のプリズムへの交換はされないほうがよいと思います。この時代のレンズにClassiC最後期のプリズムを組み合わせた場合、見え味のバランスは崩れます。)


★備考


最後に当双眼鏡で覗くお勧め描写一例です。


雨に濡れて佇む花の濃い色と存在感や、苔を纏う濡れた木の樹皮。

夕暮れ逆光下での草原、枯れ木、光を湛えゆれるススキなど。

夜の街、街頭やネオンの光源を纏い歩く人々の姿。

野外での焚き火の炎、その色と動き、煙のゆらめきなど。

これらに限らず、機会ありましたら色々なシチュエーションで特別な時間を過ごしていただければ幸いです。

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